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EPAのはたらき

フルファイン TOPIC

5年後の脳を守る青魚のチカラ

もの忘れの背景には、脳の細胞や血管の微細な変化があります。5年後も脳の働きを維持するために青魚成分EPAが果たす役割について、日比野病院の佐藤先生にご寄稿いただきました。

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佐藤 斉

日比野病院 脳神経外科 医局長 / 日本栄養治療学会 認定医 代議員

※略歴は未入稿□□□□□□□□□■□□□□□□□□□■□□□□□□□□□■□□□□□□□□□■

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加齢による衰えと「要注意なもの忘れ」の違い

脳神経外科の現場では、多くの患者様から「最近、もの忘れが増えた」という相談をいただきます。もの忘れは単なる老化現象だと片付けられがちですが、じつはその背後には見過ごせないサインが隠れていることがあります。

まず知っていただきたいのは、「自然なもの忘れ」と「要注意なもの忘れ」の違いです。例えば、人の名前がパッと出てこなくても、ヒントがあれば思い出せるのであれば、それは加齢によるもので自然な範囲と言えます。しかし、同じことを何度も聞いたり、名前そのものが全く思い出せなくなったり、あるいは日常生活に支障が出始めている場合は、注意が必要です。

こうした状態は「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれ、認知症の一歩手前の段階とされています。日常生活は何とかこなせるものの、記憶力などの認知機能が年齢相応以上に低下している状態です。放置すれば数年以内に認知症へ進行する可能性が高いですが、この段階で早期に対策を始めれば、5年後、10年後の認知機能のリスクを回避できます。逆に言えば、まだ大丈夫と思っている今こそ、対策の「チャンス」でもあるのです。

多価不飽和脂肪酸に脳の萎縮を防ぐ効果

脳の健康を考える上で避けて通れない事実があります。それは、脳の萎縮は40代という比較的早い段階から始まり、放置するとそのスピードは年々加速していくということです。

しかし、希望となる研究データもあります。国立長寿医療研究センターの研究によれば、多価不飽和脂肪酸を多く摂っている人ほど、脳の重要な部位である前頭葉や側頭葉の体積減少が少ないことが明らかになりました。つまり、日々の栄養摂取によって、脳の若さを保てる可能性があるのです。特に、青魚に豊富に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)は、脳の萎縮を防ぎ、脳の若さを維持するための鍵となる栄養素として注目されています。

毎日摂取する必要があるEPA

EPAは、なぜこれほどまでに脳の健康に寄与するのでしょうか。その理由は、私たちの細胞の構造にあります。 EPAは、脳の細胞膜を構成する重要な材料です。私たちの脳を構成する膨大な数の神経細胞は、この細胞膜を介して情報のやり取りを行っています。もしEPAが不足して細胞膜が健康な状態を保てなくなれば、神経細胞の働きそのものが低下してしまうのです。

また、EPAは体内で合成することができない必須脂肪酸であり、毎日の食事から補う必要があります。さらに重要な点として、EPAは体内で必要に応じてDHA(ドコサヘキサエン酸)へと変換される性質を持っています。そのため、EPAを十分に摂取することは、脳や網膜の健康維持に欠かせないDHAを補うことにもつながるのです。

脳の健康維持の他にもあるEPAの恩恵

EPAがもたらす恩恵は、多岐にわたります。大きく分けて、以下の4つの側面から私たちの健康を支えてくれます。

 

1. 脳の健康維持

認知機能の維持・改善が期待でき、加齢に伴う脳の変化を和らげる作用があります。

 

2. 炎症を抑える

体内で起こる慢性的な炎症を抑制します。様々な生活習慣病の予防にもつながります。

 

3. 血流・血管の健康

血液サラサラ効果により、心血管の健康を維持します。中性脂肪を下げる働きも。

 

4. 気分・免疫の調整

うつ症状の改善や免疫力のバランス調整にも関わることが報告されています。

毎日の摂取習慣を助けてくれるサプリメント

では、1日にどれくらいのEPAを摂取すればいいのでしょうか。 厚生労働省の食事摂取基準では、ω-3系脂肪酸を1日700~2,300mg摂取することが推奨されています。特に脳の健康維持を目的とするなら、1日1,000mg以上を継続的に摂ることが望ましいと考えられます。焼き魚なら手のひらサイズ1切れに相当する量ですが、ここで一つ落とし穴があります。食事から摂ったEPAは、全体の2割程度しか体内に吸収されないという報告があるのです。とはいえ、毎日何切れもの魚を食べ続けるのは現実的ではありません。

そこで賢く活用したいのが、高純度なEPAサプリメントです。良いサプリメントを選ぶポイントは以下の4点です。

・1日1,000mg以上のEPAがしっかり摂れること。

・酸化しやすい成分であるため、ビタミンEなどの酸化対策がなされていること。

・重金属検査など、安全性が明記されていること。

・高純度なものであること。

今日の選択は、5年後の自分への贈りもの

脳の健康維持は、決して特別なことではありません。今日からできる「4つの脳活習慣」を意識してみてください。

 

1. 軽い運動

散歩やストレッチなど、20~30分の有酸素運動が脳への血流を高めます。

 

2. 脳への刺激

毎日の新聞読みや数独・クロスワードパズルなどで脳に適度な刺激を与えましょう。

 

3. 青魚を食べる

EPA・DHAが豊富な青魚を日々の食卓に。手軽なサバ缶やサンマ缶も上手に活用。

 

4. サプリの活用

食事だけでは補いきれない分をサプリで補給。毎日コツコツと継続することが大切です。

 

「もう年のせいだから」と諦める必要はありません。脳の健康は、今日あなたが何を選び、何を口にするかで決まります。5年後、10年後も自分らしく、健やかな毎日を過ごすために、今こそEPA摂取の習慣を始めてみませんか。未来のあなたは、きっと今日のあなたの選択に感謝することでしょう。

[参考文献]

  1. Tokuda H, et al. Neurobiol Aging. 2022;117:179-188.

  2. Gorjao R, et al. Pharmacol Ther. 2009;122(1):56-64. (Gorjaoのaは上に波線)

  3. Gow RV, et al. Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 2013;88(6):429-429.

  4. 厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」(2023)

  5. 厚生労働省「MCIハンドブック」(2023)/「日本人の食事摂取基準(2025年版)」

がんカヘキシアにおけるEPAの臨床的位置づけ

食欲不振や体重減少でがん患者を苦しめる「がんカヘキシア(悪液質)」。その主因である全身性の炎症を抑制するEPAの働きについて、愛知医科大学病院・森先生にご寄稿いただきました。

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森 直治

愛知医科大学 大学院医学研究科 緩和・支持医療学 教授

愛知医科大学病院 緩和ケアセンター・栄養治療支援センター・栄養部 部長

1989年 大垣市民病院 外科 医員 1993年 国家公務員共済組合連合会 東海病院 外科 医員 1995年 名古屋大学 第一外科 医員 1996年 米国ルイジアナ州立大学 メディカルセンター 研究員 1998年 名古屋大学 第一外科 医員 1999年 磐田市立総合病院 外科 科長 2002年 知多市民病院 外科部長 臨床栄養室長 2011年 藤田保健衛生大学 外科・緩和医療学講座 准教授 2017年 愛知医科大学 大学院医学研究科 緩和・支持医療学 教授

EPAの特性と炎症への関与

エイコサペンタエン酸(EPA)は、ω-3系多価不飽和脂肪酸の一種であり、炎症性メディエーターの産生を調整したり、脂質の代謝に影響を与えたりする重要な働きがあることが知られています。慢性的に炎症が続くような疾患では、その炎症自体が病気の進行や症状の悪化に深く関わっています。そのため、炎症の程度や働きを調整することは、症状の改善や進行の抑制につながる可能性があり、こうした「炎症を調整する作用」が治療や栄養介入において重要な意味を持つものとして、以前から注目されてきました。

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がんカヘキシアという全身性の低栄養状態

がんカヘキシア(悪液質)とは、がんに伴う慢性的な炎症や代謝異常により、体重減少や筋肉量の低下が進行する全身性の病態です。これは慢性消耗性疾患に伴う低栄養状態であり、筋肉量の減少と炎症に基づく代謝異常を特徴としています。この病態は、単なる栄養補給だけでは改善が困難であることが知られており、ω-3系多価不飽和脂肪酸、特にEPAの役割が早くから研究されてきました。

マルチモーダルアプローチへの転換

例えば、膵がん患者を対象とした研究では、EPAを含む栄養介入によって体重減少の抑制が示唆された報告もあります。しかし、これらの効果は必ずしも一貫してはいないことから、カヘキシアは単一の介入だけで十分に改善する病態ではないという認識が広まり、複数の介入を組み合わせる必要性が指摘されるようになりました。こうした背景から、2000年代には栄養介入、運動、症状緩和などを組み合わせた「マルチモーダルアプローチ」の概念が提唱され、Fearonらはその構成要素の一つとしてEPAを位置づけています。

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継続的摂取と血中濃度維持の重要性

その後の研究でも、がんカヘキシアに対するマルチモーダルな介入の中に、栄養介入の一部としてω-3系多価不飽和脂肪酸が組み込まれ、検討されてきました。一方で、これらの研究の対象となる患者は食欲低下や全身倦怠感などの影響を受けやすく、栄養摂取そのものが困難な場合も少なくありません。そのため、栄養介入の継続や十分な摂取量の維持に関するコンプライアンスは、実臨床における重要な課題の一つとされています。EPAの作用を十分に発揮するためには、炎症性メディエーターの産生調整などを介して、一定の血中濃度を維持することが重要と考えられています。しかし実臨床では継続的な摂取が困難な場合も多く、この血中濃度の維持が効果発現を妨げる要因の一つとなり得ます。したがって、一時的にではなく日常的に、無理なく摂取を継続できるかどうかという点も、臨床上の重要なポイントになります。

包括的アプローチの推奨

現在のガイドラインにおいても、がんカヘキシアの管理は栄養、運動、症状緩和などを組み合わせた包括的アプローチが推奨されています。個別の栄養介入としての評価について、最近のメタ解析では、ω-3系多価不飽和脂肪酸の体重への影響に関する一貫した結果は得られていないものの、高齢あるいは低体重の患者群では有益な可能性を示唆する結果も報告されています。

EPAは「がんカヘキシア」に対する栄養ケアの重要な一要素

このようにEPAは、がんカヘキシアに対するマルチモーダルな栄養ケアの一要素として検討するに値する、抗炎症作用を有した栄養素であると考えられます。実際の臨床では、患者さんの栄養状態や摂取状況を踏まえ、多職種で連携しながらマルチモーダルに栄養ケアを行っていくことが、重要であると位置づけられています。

[参考文献]

1)   Fearon KC, von Meyenfeldt MF, Moses AGW, et al. Effect of a protein and energy dense n-3 fatty acid enriched oral supplement on loss of weight and lean tissue in cancer cachexia: a randomised double blind trial. Gut. 52(10):1479-1486.2003.

2)   Fearon KC, Jatoi A, Laugsand EA. Cancer cachexia: Developing combined-modality therapy based on multidisciplinary care. Eur J Cancer. 44(8):1124-1132.2008.

3   Solheim TS, Laird BJA, Balstad TR, et al. A randomized phase II feasibility trial of a multimodal intervention for the management of cachexia in lung and pancreatic cancer. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 8(5):778-788.2017.

4)   Solheim TS, Laird BJA, Balstad TR, et al. Cancer cachexia: rationale for the MENAC (Multimodal-Exercise, Nutrition and Anti-inflammatory medication for Cachexia) trial. BMJ Support Palliat Care. 8(3):258-265.2018.

5)   Arends J, Bachmann P, Baracos V, et al. Cancer cachexia in adult patients: ESMO Clinical Practice Guidelines. Ann Oncol. 32(1):116-130.2021.

6)   Arends J, Bachmann P, Baracos V, et al. ESPEN guidelines on nutrition in cancer patients. Clin Nutr. 36(1):11-48.2017.

7)   Hosseini AS, et al. The effect of omega-3 fatty acids on body composition and muscle strength in patients with cancer: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Clin Nutr ESPEN. 59:112-122.2024.

EPA、がんに効果が期待される栄養素

青魚に多く含まれる栄養素のEPAには、人の健康に寄与する作用があると研究報告され、注目を集めています。

今回は、EPAのがんに対する効果について、田無病院院長・丸山先生にご寄稿いただきました。

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丸山 道生

医療法人財団緑秀会・田無病院 院長

1980年 東京医科歯科大学医学部卒業。元 東京医科歯科大学外科臨床教授、現 東邦大学医学部外科客員教授   [所属学会]日本栄養治療学会名誉会員、日本外科代謝栄養学会特別会員、日本在宅医療連合学会理事、日本病院会東京支部理事、日本外科学会専門医、日本消化器外科学会指導医

EPAとは?

EPA(エイコサペンタエン酸)は、ヒトの体では作ることができない、口から摂取する必要のあるω-3系不飽和脂肪酸の一つです。イワシやサンマなどの冷たい海にすむ青魚に多く含まれています。ω-3系不飽和脂肪酸を豊富に含むアザラシを食べるグリーンランドのイヌイットには急性心筋梗塞の発症が少ないという1970年代の研究により、EPAが注目されるようになりました。その後多くの研究がなされ、EPAには、血をサラサラにし心筋梗塞や脳卒中の発生を抑える作用のほか、炎症やアレルギーを抑える作用、動脈硬化や脂質異常症を抑制する作用など、様々なヒトの健康に寄与する作用が確認されました。今回はその中でも注目されているがんに対しての効果を取り上げます。

EPAのがんに対しての数多くの効果

がん細胞や動物を使った基礎的な実験、がん患者を対象とした臨床的な研究、そして疫学的な調査などにより、EPAはがんに対して、発生を予防する効果、増殖を抑え大きくしない効果、抗がん剤の効き目をよくする効果、がんによって障害される日常生活の質や全身倦怠感、そしてがんにより引き起こされる食欲低下や体重減少(がん悪液質)を改善する効果など幅広い効果が確認されてきました。

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がんの発生を予防する

疫学的に日本食や地中海食など魚をよく使う食事をとっている地域では、がんの発生が少ないことがわかっていました。これはEPAに代表されるω-3系不飽和脂肪酸の直接の効果を示しているとは限りませんが、がん発生を抑えるのにω-3系不飽和脂肪酸の摂取がかかわっている可能性が考えられるのです。また、肝臓のがんに関して、ω-3系不飽和脂肪酸を多くとっているとがんになりにくいという日本の臨床研究も発表されています。EPAに代表されるω-3系不飽和脂肪酸はがんの予防に効果がある可能性が示唆されているのです。

がんの増殖を抑える

がんの培養細胞を使った多くの基礎的実験によって、EPAが細胞の増殖を抑え、がんを小さくする効果があることが確認されています。さらに、マウスにがんを移植した実験では、移植したがんの大きくなる速度をEPAが抑える効果があることも報告されています。このような抗がん作用は、EPAが細胞を死に至らしめるアポトーシスを誘発することや、がんによる血管増殖を抑制することによると考えられています。

一部のヒトでの臨床研究で、EPA摂取により肺がん・膵がん患者の生存期間が延長したという報告も見られます。ヒトでのさらなる研究が期待されるところです。

抗がん剤の効果を高め、副作用を少なくする

ω-3系不飽和脂肪酸が、いくつかの抗がん剤の作用を高めて、抗がん剤の効きがよくなり、生存期間も長くなること、また体重も増えることが報告されています。一方、抗がん剤による副作用である白血球の減少、末梢神経炎などの発生を少なくし、抗がん剤の治療を効果的に長く続けられるようになることも報告されています。EPAはがん治療を行うに際して有望な栄養素といえるのです。

がん患者の生活の質を高める

肺がん症例を対象として、ω-3系不飽和脂肪酸のサプリメントを摂ることで、健康であるという感覚や日々の生活の質、身体の運動能力、食欲などが向上したと報告されています。このような報告から、EPAを摂取することで、がん患者の総合的、全身的な病状が回復するという可能性が考えられています。

がんで痩せてしまう「がん悪液質」を改善する

がんが悪化していくに従い、食欲がなくなり、筋肉や皮下脂肪も減ってげっそりしてしまう、それを「がん悪液質」といいます。がん悪液質の原因は、がんによって引き起こされる体全体の炎症反応で、それにより体が消耗してしまうのです。EPAはこのがんによる炎症反応を抑える働きがあるので、がん悪液質を改善し、体重を回復させる作用があると考えられています。実際、膵臓や胃・大腸などのがんに関して、いくつかの臨床研究でEPAによる体重の改善が確認されていて、がん悪液質に対しての効果が期待されているのです。

以上のように、EPAはがん患者の様々な状況に対してその効果が期待されています。さらなる臨床研究により、その効果が確実になっていくことでしょう。

EPAの免疫賦活と腎疾患の有効性

主に青魚に多く含まれることが広く知られており、人の健康に寄与する効果があるという研究報告があるEPA。

今回は、EPAが免疫系や腎疾患に与える影響について、国際医療福祉大学病院・宮澤先生にご寄稿いただきました。

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宮澤 靖

国際医療福祉大学病院 栃木地区料飲部門室長 

1987年 北里大学保健衛生専門学院栄養科を卒業後、篠ノ井総合病院栄養科に入職。1993年 エモリー大学医学部臓器移植外科 栄養代謝サポートチームに留学。2002年 医療法人近森会の栄養科長となる。2009年 社会医療法人近森会臨床栄養部部長および栄養サポートセンター長として勤務。2019年 東京医科大学病院栄養管理科科長兼東京医科大学医学部講師。2025年現職。

エイコサペンタエン酸(EPA)は、ω-3系多価不飽和脂肪酸の一種であり、主に魚油に含まれる重要な脂肪酸です。EPAは健康に対して多くの有益な効果を持つことが知られており、その中には免疫系の賦活効果も含まれています。ここでは、EPAが免疫系および腎疾患に与える影響について説明していきます。

1. 抗炎症作用

EPAは抗炎症作用を持つことが知られています 1)。炎症は免疫応答の一部ですが、慢性的な炎症は健康に悪影響を与えることがあります。EPAはプロスタグランジンE2やロイコトリエンB4などの炎症促進メディエーターの生成を抑制し、代わりに抗炎症作用を持つエイコサノイドの生成を促進します。これにより、炎症反応が調節され、慢性炎症疾患のリスクが低減されます 2)

2. 免疫細胞の機能調整

EPAはさまざまな免疫細胞の機能を調整することができます。例えば、EPAはT細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージなどの免疫細胞に影響を与えます。EPAはこれらの細胞の膜脂質の構成成分となり、細胞膜の流動性を向上させ、シグナル伝達を改善します。これにより、免疫応答がより効率的に行われるようになります 3)

3. サイトカインの産生調整

サイトカインは免疫応答を調節する重要な分子であり、EPAはこれらの産生にも影響を与えます。EPAは炎症性サイトカイン(例:インターロイキン-1β、インターロイキン-6、腫瘍壊死因子α)の産生を抑制し、抗炎症性サイトカイン(例:インターロイキン-10)の産生を促進します。これにより、過度な炎症反応を防ぎ、免疫系のバランスを保つ 4,5)ことができます。

4. 脂質メディエーターの生成

EPAはレゾルビン、プロテクチン、マレキンなどの抗炎症および炎症解消メディエーターの前駆体となります。これらの脂質メディエーターは炎症反応の終結を促進し、組織の修復を助けます。これにより、急性の免疫応答が効率的に解消され、組織の恒常性が回復されます 6)

5. 臨床応用と健康効果

EPAの免疫賦活効果は、さまざまな健康状態において臨床的に応用されています。例えば、EPAのサプリメントは関節リウマチ、炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎などの炎症性疾患の症状軽減に役立つとされています。また、EPAは心血管疾患のリスク低減にも寄与することが示されています 7)

6. 腎疾患に対する効果

EPAは腎疾患、特に慢性腎臓病(CKD)に対しても有益な効果を持つことが研究で示されています 8)。EPAの抗炎症作用は、腎臓の炎症を軽減し、腎機能の低下を遅らせるのに役立ちます。さらに、EPAは血管内皮の機能を改善し、血圧の調節にも寄与するため、腎疾患の進行を抑制する可能性があります。特に、EPAは高トリグリセリド血症の患者において、血清トリグリセリド濃度を低下させることで、腎臓への負担を軽減する役割も果たします。EPAのサプリメントは、腎疾患の管理および進行抑制において有望な補完療法とされています。

7. 血圧と血管内皮機能の改善

高血圧はCKDの主要なリスク因子であり、腎機能の低下を加速させます。EPAは血管拡張作用を持ち、血圧を低下させる効果があります 4)。具体的には、EPAは一酸化窒素(NO)の産生を促進し、血管内皮機能を改善します。これにより、血管の弾力性が向上し、血流が改善されるため、腎臓への血流も確保されます。

8. 腎糸球体の保護

EPAは腎糸球体の保護作用を持つことが報告されています。具体的には、EPAはメサンギウム細胞の増殖や基質の蓄積を抑制し、腎糸球体の硬化を防ぎます。また、EPAは尿中アルブミン排泄量を減少させることが示されており、これは腎機能の改善を示す指標です 9)

9. 臨床試験における証拠

複数の臨床試験がEPAのCKD患者に対する有効性を評価しています。例えば、EPAサプリメントを摂取したCKD患者では、腎機能の低下速度が遅くなることが示されています 9)。また、EPAは透析患者においても炎症マーカーの減少や心血管イベントのリスク低減に寄与することが報告 10)されています。

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まとめ

EPAは、抗炎症作用、免疫細胞の機能調整、サイトカイン産生の調整、脂質メディエーターの生成などを通じて、免疫系に多方面から賦活効果を発揮します。さらに、EPAは腎疾患に対しても有益な効果を持ち、腎機能の保護や病態進行の抑制に寄与します。これにより、炎症性疾患や腎疾患の予防や治療において重要な役割を果たしています。EPAの適切な摂取は、免疫機能を最適化し、全体的な健康状態の向上に寄与します。

[参考文献]

1)    Calder, P. C. Polyunsaturated fatty acids and inflammation. Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 75(3):197-202.2006.

2)    Calder, P. C. Omega-3 fatty acids and inflammatory processes. Nutrients. 2(3):355-374. 2010

3)    Calder, P. C. (2008). The relationship between the fatty acid composition of immune cells and their function. *Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids, 79*(3-5), 101-108.

4)    Calder, P. C. Long-chain fatty acids and inflammation. Proc Nutr Soc. 71(2):284-289. 2012. 

5)    Serhan CN, Clish CB, Brannon J, Colgan SP, Chiang N, Gronert K. J Exp Med.16;192(8):1197-204. 2000

6)    Park CK, Lü N, Xu ZZ, Liu T, Serhan CN, Ji RR. Resolving TRPV1- and TNF-α-mediated spinal cord synaptic plasticity and inflammatory pain with neuroprotectin D1. J Neurosci. 19;31(42):15072-15085. 2011

7)    Simopoulos, A. P. Omega-3 fatty acids in inflammation and autoimmune diseases. J Am Coll Nutr. 21(6):495-505. 2002

8)    Ya-Ling Lin, Chia-Liang Wang, Kai-Li Liu, Cheng-Nan Yeh, Tsay-I Chiang. Omega-3 Fatty Acids Improve Chronic Kidney Disease-Associated Pruritus and Inflammation. Medicina.13;58(6):796. 2022

9)    Poudel, B., Bhatta, N. Omega-3 fatty acids in chronic kidney disease: An update. Journal of Clinical Medicine Research, 8(6), 363-367. 2016

10)    Rosalia Crupi, Salvatore Cuzzocrea. Role of EPA in Inflammation: Mechanisms, Effects, and Clinical Relevance. Biomolecules.1;12(2):242. 2022

疾患の原因となる慢性炎症を抑制するEPAの働き

EPAには、人の健康に寄与するさまざまな効果があり、関連する研究が進められています。

今回は、慢性炎症に作用するEPAについて、ちゅうざん病院副院長・吉田先生にご寄稿いただきました。

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吉田 貞夫

ちゅうざん病院副院長 / 沖縄大学健康栄養学部客員教授 / 金城大学客員教授

1996年 米国のがん研究の専門誌『キャンサー・リサーチ』に投稿した論文で、筑波大学大学院医学研究科最優秀英論文賞受賞。2014年 金城大学客員教授に就任。2018年 ちゅうざん病院副院長。2022年「骨格筋量推定システム、骨格筋量推定装置、データベース装置及びプログラム」で特許を取得(特許第7113121号)。2023年 沖縄大学健康栄養学部管理栄養学科客員教授兼任

さまざまな疾患の原因となる慢性炎症

日本人のおもな死因の第1位はがん、第2位は心疾患(心不全、心筋梗塞など)、1つ飛んで、第4位は脳血管疾患(脳梗塞、脳出血など)です 1)。死因の第6位は誤嚥性肺炎で、第4位の脳血管疾患やアルツハイマー型認知症などが原因であることが少なくありません。第8位は腎不全ですが、日本では、糖尿病から慢性腎臓病を発症する方が多いといわれています。
これらの疾患の発症に関連していると考えられているのが、慢性炎症です。慢性炎症は、インスリン抵抗性(血糖を低下させるホルモンであるインスリンが働きにくくなる状態)を引き起こし、さまざまな疾患と相互に関連していることが近年の研究で明らかにされています。

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慢性炎症と疾患の関連

慢性炎症の原因となる細胞の老化

慢性炎症にはさまざまな原因がありますが、その1つとして注目されているのが『サスプ』です。正確には、細胞老化関連分泌現象(SASP;Senescence-Associated Secretory Phenotype)と呼ばれています。細胞の分裂、増殖が停止した状態を『細胞の老化』といいます。老化した細胞は、炎症性サイトカイン(炎症を引き起こす物質)などを放出し、これによって、組織が破壊されます。この破壊は、リモデリング(組織を新たに作り直すこと)のために重要なステップと考えられていますが、組織の破壊によって臓器の機能が低下していくリスクも併せ持っています。

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細胞老化関連分泌現象(SASP;Senescence-Associated Secretory Phenotype)

EPAと慢性炎症

EPA(エイコサペンタエン酸)は、オメガ3系脂肪酸の1つで、サバやイワシなどの青魚に多く含まれる油として知られています。EPAは慢性炎症を抑制し、動脈硬化や心筋梗塞などの疾患の発症を抑制する可能性があると期待されています。EPAは、血管の機能、特に血管内皮細胞(血液と接する血管の内側にある細胞)の機能を改善するという報告があります 2)。よく「人は血管から老いる」といわれます。日本人の死因に多い心筋梗塞、脳梗塞などは、動脈硬化が進行した結果、発症する疾患です。また、骨格筋の機能を維持し、いつまでも元気に生活するためにも、血管のケアは大切です。

EPAをサプリメントで摂取するメリット

炎症を抑制し、血管の機能を改善するといわれているEPAですが、摂り過ぎると、心房細動という不整脈の原因になる可能性があることも報告されています 3)。EPAをより多く摂取しようと、油ののった魚を食べ過ぎて肥満になり、EPAのメリットが失われてしまうリスクもあります。

また、EPAは酸化しやすいため、サバ、イワシなどの魚を食べる際にも、新鮮な状態で摂取する必要があります。EPAをサプリメントで摂取することにより、EPAの酸化を防ぐとともに、必要な量を過不足なく継続的に摂取できるメリットがあります。

[参考文献]

1) 厚生労働省.令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況.

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/gaikyouR4.pdf

2) Djuricic I and Calder PC. Omega-3 (n-3) Fatty Acid-Statin Interaction: Evidence for a Novel Therapeutic Strategy for Atherosclerotic Cardiovascular Disease. Nutrients. 2024 Mar 27;16(7):962. doi: 10.3390/nu16070962.

3) Myhre PL, Berge T, Kalstad AA, et al. Omega-3 fatty acid supplements and risk of atrial fibrillation and ‘micro-atrial fibrillation’: A secondary analysis from the OMEMI trial. Clin Nutr. 2023 Sep;42(9):1657-1660. doi: 10.1016/j.clnu.2023.07.002.

著書・執筆

2024年『患者に話したくなる「たんぱく質」のすべて』(メディカ出版)、2023年〜『月刊薬事』(じほう)で『パズル紐解く病態別栄養療法』を連載、2023年『ナースマガジン』(メディバンクス)で『サルコペニア、フレイル、ロコモティブ症候群・・・、その違いって?』を連載、2017年『高齢者を低栄養にしない20のアプローチ MNAで早期発見 事例でわかる基本と疾患別の対応ポイント』(メディカ出版)編集・執筆、2014年『認知症の人の摂食障害 最短トラブルシューティング』(医歯薬出版)を企画・執筆。その他。

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