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EPAのはたらき

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がんカヘキシアにおけるEPAの臨床的位置づけ

食欲不振や体重減少でがん患者を苦しめる「がんカヘキシア(悪液質)」。その主因である全身性の炎症を抑制するEPAの働きについて、愛知医科大学病院・森先生にご寄稿いただきました。

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森 直治

愛知医科大学 大学院医学研究科 緩和・支持医療学 教授

愛知医科大学病院 緩和ケアセンター・栄養治療支援センター・栄養部 部長

1989年 大垣市民病院 外科 医員 1993年 国家公務員共済組合連合会 東海病院 外科 医員 1995年 名古屋大学 第一外科 医員 1996年 米国ルイジアナ州立大学 メディカルセンター 研究員 1998年 名古屋大学 第一外科 医員 1999年 磐田市立総合病院 外科 科長 2002年 知多市民病院 外科部長 臨床栄養室長 2011年 藤田保健衛生大学 外科・緩和医療学講座 准教授 2017年 愛知医科大学 大学院医学研究科 緩和・支持医療学 教授

EPAの特性と炎症への関与

エイコサペンタエン酸(EPA)は、ω-3系多価不飽和脂肪酸の一種であり、炎症性メディエーターの産生を調整したり、脂質の代謝に影響を与えたりする重要な働きがあることが知られています。慢性的に炎症が続くような疾患では、その炎症自体が病気の進行や症状の悪化に深く関わっています。そのため、炎症の程度や働きを調整することは、症状の改善や進行の抑制につながる可能性があり、こうした「炎症を調整する作用」が治療や栄養介入において重要な意味を持つものとして、以前から注目されてきました。

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がんカヘキシアという全身性の低栄養状態

がんカヘキシア(悪液質)とは、がんに伴う慢性的な炎症や代謝異常により、体重減少や筋肉量の低下が進行する全身性の病態です。これは慢性消耗性疾患に伴う低栄養状態であり、筋肉量の減少と炎症に基づく代謝異常を特徴としています。この病態は、単なる栄養補給だけでは改善が困難であることが知られており、ω-3系多価不飽和脂肪酸、特にEPAの役割が早くから研究されてきました。

マルチモーダルアプローチへの転換

例えば、膵がん患者を対象とした研究では、EPAを含む栄養介入によって体重減少の抑制が示唆された報告もあります。しかし、これらの効果は必ずしも一貫してはいないことから、カヘキシアは単一の介入だけで十分に改善する病態ではないという認識が広まり、複数の介入を組み合わせる必要性が指摘されるようになりました。こうした背景から、2000年代には栄養介入、運動、症状緩和などを組み合わせた「マルチモーダルアプローチ」の概念が提唱され、Fearonらはその構成要素の一つとしてEPAを位置づけています。

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継続的摂取と血中濃度維持の重要性

その後の研究でも、がんカヘキシアに対するマルチモーダルな介入の中に、栄養介入の一部としてω-3系多価不飽和脂肪酸が組み込まれ、検討されてきました。一方で、これらの研究の対象となる患者は食欲低下や全身倦怠感などの影響を受けやすく、栄養摂取そのものが困難な場合も少なくありません。そのため、栄養介入の継続や十分な摂取量の維持に関するコンプライアンスは、実臨床における重要な課題の一つとされています。EPAの作用を十分に発揮するためには、炎症性メディエーターの産生調整などを介して、一定の血中濃度を維持することが重要と考えられています。しかし実臨床では継続的な摂取が困難な場合も多く、この血中濃度の維持が効果発現を妨げる要因の一つとなり得ます。したがって、一時的にではなく日常的に、無理なく摂取を継続できるかどうかという点も、臨床上の重要なポイントになります。

包括的アプローチの推奨

現在のガイドラインにおいても、がんカヘキシアの管理は栄養、運動、症状緩和などを組み合わせた包括的アプローチが推奨されています。個別の栄養介入としての評価について、最近のメタ解析では、ω-3系多価不飽和脂肪酸の体重への影響に関する一貫した結果は得られていないものの、高齢あるいは低体重の患者群では有益な可能性を示唆する結果も報告されています。

EPAは「がんカヘキシア」に対する栄養ケアの重要な一要素

このようにEPAは、がんカヘキシアに対するマルチモーダルな栄養ケアの一要素として検討するに値する、抗炎症作用を有した栄養素であると考えられます。実際の臨床では、患者さんの栄養状態や摂取状況を踏まえ、多職種で連携しながらマルチモーダルに栄養ケアを行っていくことが、重要であると位置づけられています。

[参考文献]

1)   Fearon KC, von Meyenfeldt MF, Moses AGW, et al. Effect of a protein and energy dense n-3 fatty acid enriched oral supplement on loss of weight and lean tissue in cancer cachexia: a randomised double blind trial. Gut. 52(10):1479-1486.2003.

2)   Fearon KC, Jatoi A, Laugsand EA. Cancer cachexia: Developing combined-modality therapy based on multidisciplinary care. Eur J Cancer. 44(8):1124-1132.2008.

3   Solheim TS, Laird BJA, Balstad TR, et al. A randomized phase II feasibility trial of a multimodal intervention for the management of cachexia in lung and pancreatic cancer. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 8(5):778-788.2017.

4)   Solheim TS, Laird BJA, Balstad TR, et al. Cancer cachexia: rationale for the MENAC (Multimodal-Exercise, Nutrition and Anti-inflammatory medication for Cachexia) trial. BMJ Support Palliat Care. 8(3):258-265.2018.

5)   Arends J, Bachmann P, Baracos V, et al. Cancer cachexia in adult patients: ESMO Clinical Practice Guidelines. Ann Oncol. 32(1):116-130.2021.

6)   Arends J, Bachmann P, Baracos V, et al. ESPEN guidelines on nutrition in cancer patients. Clin Nutr. 36(1):11-48.2017.

7)   Hosseini AS, et al. The effect of omega-3 fatty acids on body composition and muscle strength in patients with cancer: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Clin Nutr ESPEN. 59:112-122.2024.

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